こんにちは、岡山矯正歯科の院長 田川 淳平です。
矯正治療は、美しい歯並びや健康的な噛み合わせを実現するために欠かせない治療ですが、治療中に注意すべきリスクの一つとして「歯根吸収」が挙げられます。
歯根吸収は、歯の根が徐々に溶けて短くなったり、細くなる現象で、進行すると歯の寿命に影響を及ぼす場合があります。
特に矯正治療中に歯根吸収が発生するリスクは、患者さん一人ひとりの体質や治療方法によって異なります。
本記事では、歯根吸収とは何か、その原因やリスク、さらには予防策や対応方法について詳しく解説します。
初めて矯正治療を受ける方や2回目の矯正を検討されている方にとって、この記事が治療を進めるうえでの参考になれば幸いです。
例えば、ワイヤー矯正やマウスピース矯正といった選択肢があり、それぞれの特徴を理解しておくことで安心して治療を進めることができます。
この記事では、以下の内容を詳しくご紹介します。
- 歯根吸収とは?
- 矯正治療で歯根吸収が起きる原因
- 歯根吸収が起こりやすいケース
- 歯根吸収のリスクを軽減する方法
- 2回目の矯正治療でのリスク
- 歯根吸収が発覚した際の対応方法
- まとめ

1. 歯根吸収とは?
歯根吸収とは、歯の根(歯根)の表面や内部が徐々に溶けて短くなったり、細くなる現象を指します。
この問題は矯正治療中に生じる可能性があり、軽度の場合には大きな影響とはなりませんが、重度になると歯の寿命や健康に深刻な影響を与えることがあります。
歯根吸収には以下の2種類があります:
- 外部吸収:歯根の外側から吸収が進むタイプで、一般的に矯正治療で観察されるもの。
- 内部吸収:歯の内部から吸収が進むタイプで、より稀なケース。
この現象が起きる理由はさまざまであり、全ての原因が解明されているわけではありません。
まずは、矯正治療での歯の移動のメカニズムを説明します。
矯正治療では歯に力を加えて歯を動かそうとすると、歯根の周りの骨が作り替えられることによって歯が移動します。
この骨の作り替えは、骨の吸収(歯が動いていく方向の骨が一旦溶けて無くなる)と骨の添加(歯が動いた反対の方向の骨が作られる)の両方が起こっているのです。
この骨の吸収と添加が起きながら歯が動く際に、本来は吸収しないはずの歯根までもが吸収してしまうことが歯根吸収です。
歯の周囲の骨と歯根との間の調和が乱れてしまっているのでしょうか。
また、歯根吸収は治療の進行状況や患者さんの体質によっても異なります。
多くの患者さんでは軽度の吸収で済むこともありますが、体質や治療内容によっては吸収が進行しやすいこともあります。
前歯は特に影響を受けやすいです。
矯正治療中に定期的にレントゲン検査を受けることで、歯根吸収の早期発見が可能です。
問題が発生した場合には、治療計画を適切に修正することが重要です。

2. 矯正治療で歯根吸収が起きる原因
矯正治療が歯根吸収を引き起こす主な原因として、以下の要因が挙げられます:
2-1. 過剰な力の作用
矯正治療では歯を移動させるために力を加えますが、この力が過剰である場合、歯根に負担がかかり吸収が進むことがあります。
特に大きな力で歯を動かそうとすると、歯根吸収のリスクが高まります。
例えば、短期間で理想の歯並びを実現しようとする無理な治療計画は、歯に過度なストレスを与える可能性があります。
力の加え方を調整することで、歯根吸収のリスクを軽減することができます。
2-2. 治療期間の長期化
治療が長引くと、歯根吸収のリスクが高まる傾向があります。
これは、長期間にわたり力が歯にかかることで、歯根が徐々に影響を受けるためであろうと考えられます。
長期の治療が必要な場合は、定期的な検査で状態を確認し、必要に応じて治療計画を調整することが重要です。
矯正治療の再治療を考えられる患者さんも多いとは思いますが、再治療ということは以前の矯正治療での治療期間と再治療での期間を合算しての負担が掛かるため、慎重な判断が必要です。
また、認定医や専門医では無い、一般の歯医者さんで矯正治療を受けようと思われている方は、上手く治らずに再治療になるリスク、その再治療には歯根吸収のリスクがあることもよく考えてから決断することをお勧めします。
2-3. 患者さん固有の体質
歯根吸収が起きやすい体質の方もいます。
これは遺伝的要因や骨密度、歯の健康状態などが関与しており、個々の患者さんによってリスクが異なります。
2-4. 歯の形状や部位
私の臨床経験や、多くの矯正歯科医師との意見交換では、前歯は歯根吸収が起こりやすいイメージがあります。
歯根吸収は、歯を大きく動かせばリスクが上がりますが、矯正治療では特に前歯を大きく動かすからかもしれませんし、前歯の細長い形状が理由からかもしれませんが、このあたりの理由は明らかになっていません。
また、上下顎の歯で力の加わり方が異なるため、リスクも歯の位置によって変わります。
2-5. 外的要因
過去に、歯の神経を取る治療を受けている歯や、転んで歯を強くぶつけた外傷の経験がある歯は特に注意が必要で、歯根吸収が発生しやすい状況を作り出します。このため、治療前の診断が非常に重要です。
以上のように、歯根吸収は矯正治療による力の加わり方や患者さんの個別の要因によって発生する可能性があります。
適切な治療計画を立てることが、リスク軽減の鍵となります。
3. 歯根吸収が起こりやすいケース
矯正治療中に歯根吸収が起こりやすいケースとして以下が挙げられます:
3-1. 過去に外傷を受けた歯
過去に外傷を受けた歯はダメージを負ってしまっていることが多く、矯正治療中に歯根吸収が進むリスクがあります。
外傷の程度によっては、歯根が既に一部吸収していることもあり、矯正治療開始前の精密検査が特に重要です。
例えば、過去にスポーツや事故で前歯をぶつけた経験がある患者さんの場合、その部位を矯正する際には慎重な検査・診断と矯正治療時の力加減が求められます。
矯正歯科医はこれらの背景を考慮して、負担を最小限に抑える治療計画を立てる必要があります。
3-2. 2回目の矯正治療
一度矯正治療を受けた歯は、再度の矯正治療によって歯根吸収のリスクが高まる傾向があります。
これは、初回の矯正治療時に歯根がダメージを負っているため、さらなる矯正治療の力を加えると歯根がさらにダメージを受けるためです。
特に、成人で2回目の矯正治療を受ける場合、歯根や骨の状態を慎重にモニタリングしながら治療を進めることが大切です。
また、矯正歯科医との詳細な相談を通じて、リスクを理解し予防策を講じることが重要です。
3-3. 歯根がもともと短い場合
生まれつき歯根が短い患者さんや、過去の炎症や病気の影響で歯根が短縮している患者さんも、歯根吸収が進行しやすい傾向があります。
この場合、矯正治療の力加減を特に注意深く調整する必要があります。
歯根が短い患者さんの場合、矯正治療開始前のレントゲン撮影で歯根の形状や長さを正確に把握し、無理のない治療計画を作成することが大切です。
さらに、矯正治療中の定期的なチェックも不可欠です。
3-4. 歯の移動量が大きい場合
必要とされる歯の移動量が大きい場合には、歯根吸収が進行しやすい傾向があります。
このため、3-1から3-3に該当するような歯であれば、歯の移動量を小さくした治療計画を立てることが必要になる場合もあります。
4. 歯根吸収のリスクを軽減する方法
歯根吸収のリスクを最小限に抑えるためには、以下のポイントが重要です:
4-1. 適切な治療計画の作成
矯正歯科医は、患者さん一人ひとりの歯や歯根の状態を詳しく分析し、適切な治療計画を立てる必要があります。
治療計画の段階で、歯根吸収のリスクを想定し、無理のない範囲で力を加える治療を進めることが大切です。
例えば、歯を急激に動かさず、徐々に力を加えることで歯根にかかる負担を軽減できます。
また、もともと歯根が短いような場合には、歯の移動量が小さい治療計画に変更することが必要になる場合もあります。
4-2. 定期的なレントゲン検査
治療中に定期的にレントゲン検査を行うことで、歯根の状態をモニタリングできます。
これにより、歯根吸収が早期に発見された場合には、治療計画を修正することでリスクを軽減できます。
例えば、治療の中間段階でレントゲンを撮影し、歯根の長さや吸収の進行具合を確認することが推奨されます。
早期発見が重要な理由は、進行が軽度であれば治療の調整で吸収の進行を抑えられるためです。
4-3. 力の加え方の調整
矯正治療中に使用する装置の力加減を適切に調整することで、歯根にかかる負担を減らすことができます。
ワイヤー矯正の場合、定期的な調整時に力を確認し、必要に応じて微調整を行うことが重要です。
マウスピース矯正の場合には、歯に負担が少ないような治療計画を立てることが重要となります。
どちらの調整も一般の歯医者さんには難しいものであるため、認定医や専門医といった矯正歯科の専門家に任せることが安心です。
4-4. 治療中の患者さんの協力
患者さん自身も歯根吸収のリスクを軽減するためにできることがあります。
例えば、矯正治療装置の使用方法を正しく守り、定期的に矯正歯科医師の治療・指導を受けることが挙げられます。
患者さんが治療に積極的に協力することで、歯根吸収のリスクをさらに抑えられます。
例えばマウスピース矯正では、装置を正しい時間・頻度で使用しないと予期しない負担がかかる可能性があるため、矯正歯科医師の指導に従うことが大切です。
矯正治療は矯正歯科医師と患者さんが協力して進めることで、より良い結果を得られるのです。
5. 2回目の矯正治療でのリスク
2回目の矯正治療は、初回の矯正治療で既に歯根が影響を受けている場合が多いため、慎重なアプローチが必要です。
以下に、リスクと対策について詳しく説明します。
5-1. 歯根が弱まっている可能性
初回の矯正治療で、歯根が短くなっている場合があります。
この状態で再び矯正治療を行うと、歯根吸収が進行するリスクが高まります。
そのため、矯正治療前の精密検査で歯根の状態をしっかりと確認することが必要です。
5-2. 過去の治療履歴を把握
過去にどのような治療を受けたのかを矯正歯科医に正確に伝えることが重要です。
使用した装置や治療期間、治療中のトラブルについての情報は、新たな治療計画を立てる際に役立ちます。
5-3. 治療計画の再検討
2回目の矯正治療では、初回とは異なるアプローチが必要になる場合があります。
例えば、ワイヤー矯正からマウスピース矯正に切り替えることで、歯根への負担を軽減できる場合もあります。
また、移動する歯の範囲を限定することで、リスクを抑えることが可能です。
5-4. 治療中のモニタリング強化
2回目の矯正治療中は、初回以上に頻繁に歯根の状態をモニタリングする必要があります。
これにより、歯根吸収が進行する兆候を早期に発見し、治療計画を調整することができます。
5-5. 矯正医との密なコミュニケーション
患者さん自身も治療に積極的に関与することが重要です。
治療中に違和感などを感じた場合は、速やかに矯正歯科医に相談しましょう。
また、定期的な診察で治療の進捗を確認し、不安や疑問点を解消することが大切です。
6. 歯根吸収が発覚した際の対応方法
矯正治療中に歯根吸収が発見された場合、迅速かつ慎重な対応が求められます。
以下に詳細な対応策を解説します。
6-1. 治療の一時中断
歯根吸収が進行している場合、治療を一時的に中断し、歯や歯根の状態を観察します。
この期間中、患者さんには口腔ケアを徹底してもらい、歯根吸収の進行を抑えるための指導を行います。
一時中断することで、歯にかかる負担を軽減し、吸収がさらに進行するのを防ぎます。
6-2. 力の調整
矯正装置の力加減を見直すことは非常に重要です。
例えば、ワイヤーの調整や、使用するゴムの種類・強度を変更することで、歯にかかる負荷を軽減できます。
また、矯正力を抑えた治療を継続することで、歯根吸収のリスクを管理することが可能です。
6-3. モニタリングの強化
歯根吸収が発見された場合、治療期間中のモニタリング頻度を増やします。
定期的にレントゲン検査やCTスキャンを行い、歯根の状態を確認します。
これにより、歯根吸収の進行状況を把握し、必要に応じて治療方針を柔軟に変更することができます。
6-4. 患者さんとのコミュニケーション
患者さん自身が状況を正しく理解し、治療方針に納得していることが重要です。
歯根吸収が進行している場合、その原因やリスクについて詳しく説明し、今後の治療計画を共有します。
不安を解消するために、治療の選択肢や予防策を明確に伝えることが求められます。
6-5. 治療の中止という選択肢
歯根吸収が深刻で、歯の健康や機能に重大な影響を与えると判断された場合、治療を中止する決断が必要になることもあります。
この場合、患者さんと相談しながら、歯の健康を最優先に考えた対処法を検討します。
例えば、矯正治療を中止した後に保定装置を用いて、現在の歯並びを維持する方法などが考えられます。

7. まとめ
矯正治療は、美しい歯並びと健康を実現するために有効な治療ですが、歯根吸収というリスクが伴うことを理解しておく必要があります。
このリスクに対処するためには、患者さんと矯正歯科医が密に連携し、慎重に治療を進めることが求められます。
患者さんに伝えたい重要なポイント
- 定期的なレントゲン検査やモニタリングを受けること。
- 治療中に異常を感じた場合は、速やかに矯正歯科医師に相談すること。
- 治療計画を十分に理解し、矯正歯科医と積極的にコミュニケーションを取ること。
患者さんご自身が正しい知識を持ち、矯正歯科医と協力することで、歯根吸収のリスクを最小限に抑えることができます。
また、矯正治療の進行中には、口腔衛生を徹底することが、治療成功への大きな鍵となります。
この記事が、矯正治療に関する不安を解消し、より良い治療体験への一助となれば幸いです。
当院では、一人ひとりの患者さんに最適な矯正治療を提案し、治療中も患者さんが相談しやすい快適な環境を作るよう心掛けています。
矯正治療に興味のある方はお気軽にご相談ください。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
この記事を読んだ方が、より良い矯正治療を受けられることを願っています。
今後もどうぞご贔屓ご鞭撻のほどを。