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医療コラム
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2025.10.30

【マイクロプラスチックとマウスピース矯正:環境負荷を減らすサステナブルな矯正治療】


こんにちは、岡山矯正歯科の院長 田川 淳平です。

ここ数年、「マイクロプラスチック」はニュースや論文で頻繁に取り上げられ、社会全体の大きな関心事となりました。

とくに2024年にScience誌に掲載されたここ20年のレビューは、マイクロプラスチックの定義・発生源・環境中での広がり・生物への影響・今後の対策までを包括的に整理し、「環境汚染は2040年までに倍増し得る」との見通しや、予防原則に基づく発生源対策の重要性を強調しています。

参考

一方、矯正治療では「目立ちにくさ」「取り外し可能」「通院負担の軽減」といった利点からマウスピース(アライナー)のニーズが高まっています。

マウスピースは医療機器であり、矯正歯科が患者さんへの安全性・有効性を最優先に提供すべきものですが、素材の多くがプラスチックである以上、環境負荷の観点も避けて通れません。

この記事では、サステナブルな矯正治療の実現を目指す視点から、最新の知見や当院の取り組みを、患者さんにわかりやすく解説します。

今回はマウスピース矯正とマイクロプラスチックについてのお話です。
今回はマウスピース矯正とマイクロプラスチックについてのお話です。
  1. なぜ今、矯正治療と環境負荷を一緒に考えるのか
  2. マイクロプラスチック研究の“いま”—Science誌の20年総括から
  3. マウスピース矯正における環境負荷の論点整理
  4. 外注型とインハウスアライナーの違い:廃棄とサプライチェーンの視点
  5. 岡山矯正歯科の取り組み:サステナブル設計×デジタル機器活用
  6. 「環境」と「治療品質」を両立させるためにできること
  7. よくある誤解と注意点(医療広告ガイドラインに沿って)
  8. 患者さんストーリー:必要な分だけ作る、を日常に
  9. FAQ(よくある質問)
  10. まとめ

1.なぜ今、矯正治療と環境負荷を一緒に考えるのか

  • マイクロプラスチックは多様な発生源(タイヤ粉、合成繊維、塗料、化粧品、大型プラスチックの破砕)から生まれ、海・淡水・土壌・大気など広範囲に分布していることが示されています。PubMed
  • 環境や生物への影響については複数レベル(個体〜群集)で“有害性の証拠が蓄積”しており、人の体内での検出報告も増えています。ただし健康影響への定量評価には不確実性も残るため、「予防原則」に基づき発生源対策を優先する国際的議論が進んでいます。PubMed+1

引用元:Thompson RC, et al. Twenty years of microplastic pollution research—what have we learned? Science (2024). DOI: 10.1126/science.adl2746

矯正治療に使うマウスピースは、口腔内で使用する装置であり、設計・製造・管理されます。

医療としての品質と安全性を担保しつつ、サステナブルな観点からライフサイクル(設計→製造→使用→廃棄)を見直すことが、矯正歯科にも問われています。

2.マイクロプラスチック研究の“いま”—Science誌の20年総括から

**Science(2024)**のレビューは、次の点を示しています。

  • マイクロプラスチック」の定義は進化しており、粒径・形状・化学組成など多様性が強調される。Science
  • 発生源の多岐化:タイヤ摩耗粉、繊維、塗料、化粧品、そして大型プラスチックの破砕。PubMed
  • 広域分布:極域・深海を含む地球規模で検出。食物・飲料への混入、人体内での検出も報告される。PubMed
  • 将来予測:対策が不十分なら2040年までに環境汚染が倍増し得る。PubMed
  • 施策提言予防原則に基づき発生源対策を優先、解決策の実効性検証と意図せぬ副作用の最小化が必要。PubMed

この記事では、この国際的な視座を踏まえ、矯正治療で用いるマウスピースのライフサイクルに即して、環境負荷の低減策を考えます。

3.マウスピース矯正における環境負荷の論点整理

3-1. マウスピースの材料と製作サイクル

  • 矯正用マウスピースは、プラスチック(多くは熱可塑性樹脂)を成形し、矯正治療のスタート時に大量に作成し、一定期間ごとに交換して使用する。
  • 製作時に端材のロスが出てしまう。
  • 矯正治療中に必要となる追加アライナーというマウスピースの追加発注が必要になることがある。

3-2. 外部環境への排出リスク

  • Scienceレビューは医療用マウスピースについて特段に言及していませんが、一般論としてプラスチック製品が増えれば、製造・廃棄の各段階でプラスチックによる環境負荷が生じ得ます。対策は「発生源での削減」が重要とされます。PubMed

3-3. “必要な分だけ作る”という発想

  • 治療計画に応じて枚数を最適化し、過剰製作や無駄な廃棄を避けることは、サステナブルな医療提供に直結します(臨床的妥当性と品質を損なわない範囲で)。
マウスピース作製時の端材や未使用分などの廃棄の問題があります。
マウスピース作製時の端材や未使用分などの廃棄の問題があります。

4.外注型とインハウスアライナーの違い:廃棄とサプライチェーンの視点

4-1. 外注型(例:インビザライン等)

  • 治療計画に沿って治療開始時に一括で多くのマウスピースが製作される運用が一般的。途中で修正が生じると、未使用のアライナーが出る場合がある。
  • グローバルなサプライチェーン(材料供給・輸送・梱包)が関与。

4-2. インハウスアライナー(院内製作)

  • 口腔内スキャナー→治療設計→3Dプリンターによるモデル出力→院内で成形・仕上げ、というデジタル院内フロー
  • 段階的製作を基本にしやすく、“必要な分だけ”の製作・補填が可能。結果的に、未使用のアライナー廃棄を抑えやすい運用に寄与します(※治療内容・症例によって最適フローは異なります)。
  • 梱包・輸送工程が比較的短く、サプライチェーン由来の環境負荷を抑える余地がある。

重要:上記は一般的な運用上の特徴であって、どちらが常に優れていると断定するものではありません。

5.岡山矯正歯科の取り組み:サステナブル設計×デジタル機器活用

岡山矯正歯科では、次のサステナブルな実務改善に取り組んでいます。

5-1. インハウスアライナーも運用

  • 段階製作により、矯正治療の進行状況に合わせてマウスピースの枚数を最適化。無駄な環境負荷(未使用廃棄)を抑える設計を心がけています。
  • 破損・紛失への迅速な再製作が可能で、「使えない在庫」を残しにくい運用に寄与。

5-2. デジタル設備の拡充

  • 口腔内スキャナーで印象材の使用量と再採得のリスクを低減。
  • 3Dプリンターで模型を院内出力し、必要なタイミング・必要な数で対応。
  • 治療計画の検証(必要に応じて再設計)を院内完結でき、過剰製作の抑制につなげます。

5-3. 体制と品質

  • 日本矯正歯科学会 認定医が2名在籍。難度の高いとされる抜歯を伴うマウスピース矯正にも対応可能な設計力と、デジタル機器の豊富な活用実績があります。
  • サステナブルであること」と「矯正治療」を両立させるため、医療安全・品質管理を最優先に運用しています。

6.「環境」と「治療品質」を両立させるためにできること

患者さん・医院・社会の三者で取り組めるヒントを整理します。

  • 治療計画の精緻化:初期段階で目標と優先順位を丁寧にすり合わせ、無駄な作り直しを減らす(ただし治療中の調整は医学的に必要な場合がある)。
  • 段階製作+モニタリング:経過に応じた最小限の個数の追加アライナーでゴールに到達する運用を志向。
  • 保管・使用ルールの徹底:破損・紛失を避ける日常ケア(患者さんは専用ケース利用、熱変形を避けるなど)で再製作リスクを低減。
  • 廃棄の適正管理:院内での分別ルールの明確化。
  • 最新知見のフォローScienceレビューが示す通り、解決策の効果検証が今後の課題。新たな材料・再資源化技術・回収スキームの検証にも注目。PubMed

7.よくある誤解と注意点

  • 「インハウスなら絶対エコ」は誤解:運用次第です。製造条件・歩留まり・再製作頻度・院内の品質体制などで結果は変わります。
  • 「外注型は環境に悪い」は断定不可:一括製作でも、治療設計が的確で追加アライナーが少なければ無駄は抑えられます。
  • 「マイクロプラスチック=即健康被害」ではない:Scienceレビューは広範な分布と有害性の証拠増加を示しつつ、人の健康影響の評価には不確実性が残ることも指摘しています。過度な不安喚起は避け、予防原則に沿った発生源対策・適正管理を進めます。PubMed
インハウスアライナーであれば絶対にエコというわけでは無く、条件に寄ります。
インハウスアライナーであれば絶対にエコというわけでは無く、条件に寄ります。

8.患者さんストーリー:必要な分だけ作る、を日常に

「できるだけ環境に配慮した矯正治療を選びたい。でも仕上がりや通院負担も大事…」
——40代・女性の患者さんからのご相談。

  • 初診で治療ゴールとライフスタイルを共有。段階製作を前提として、マウスピース最小限の枚数で到達できる設計を検討。
  • 経過を口腔内スキャナーで記録し、必要なら微調整無駄な再製作を避けるよう対話を重ねた。
  • 結果として、未使用アライナーの廃棄を減らしつつ治療目標に到達(※個人の体験談ではなく、当院が目指す運用イメージです)。

このように、サステナブルな配慮は、日々の診療プロセスの中で積み重ねることができます。

9.FAQ(よくある質問)

Q1.インハウスアライナーは本当にエコですか?
A.矯正治療の設計と運用次第です。インハウスは段階製作により過剰在庫の発生を抑えやすい点があり、環境負荷低減に寄与する可能性がありますが、症例や院内体制によって差が出ます。

Q2.マイクロプラスチックは人体にどの程度影響がありますか?
A.Science誌レビューは、マイクロプラスチックが食物・飲料・人体内で検出され、生物影響の証拠が増えつつあることを示しつつも、人への健康影響には不確実性が残ると述べているため、影響についてはまだ分かってはいません。対策は予防原則に基づく発生源対策が推奨されます。PubMed

Q3.外注型と比べ、治療の質に差はありますか?
A.装置の種類だけで治療結果の優劣は断定できません。重要なのは矯正歯科医の診断力・設計力・モニタリング体制です。当院では日本矯正歯科学会 認定医が2名在籍し、デジタル機器を活用して治療品質の確保に努めています。

Q4.抜歯が必要なケースでもマウスピース矯正は可能ですか?
A.症例選択と設計が重要ですが、当院は抜歯を伴うマウスピース矯正にも対応可能です(個別の適応は検査・診断で判断)。サステナブルな視点と治療の妥当性を両立させます。

Q5.患者として環境配慮のためにできることは?
A.マウスピース紛失・破損を防ぐための保管、熱変形を避けるための取扱い、指示通りの装着時間の順守により、再製作の最小化に協力いただけます。環境負荷低減と矯正治療成功の両方に役立ちます。

10. まとめ

Science(2024)誌の20年レビューは、マイクロプラスチックの広範な分布有害性の証拠増加、そして2040年までに汚染が倍増し得る懸念を示し、予防原則に基づく発生源対策の必要性を訴えています。Science

矯正歯科においても、マウスピースライフサイクルを見据えたサステナブルな運用が求められます。

岡山矯正歯科は、インハウスアライナーデジタル機器を活用し、必要な分だけ作るという発想で環境負荷を減らしながら、矯正治療品質との両立を目指します。

最後に:

素材・製法・運用の最適解は、症例ごとに異なります。環境と医療品質の両立に関心のある方は、まずは初診カウンセリングでお気軽にご相談ください。

患者さん一人ひとりに適したサステナブルな治療計画をご提案します。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

この記事を読んだ方が、より良い矯正治療を受けられることを願っています。

今後もどうぞご贔屓ご鞭撻のほどを。

💬 \お気軽にご相談ください/
初診相談はWebやお電話で受付中。
患者さん一人ひとりに合った矯正装置を、専門医と一緒にじっくり選びましょう。


参考(本文中で引用)

  • Thompson RC, et al. Twenty years of microplastic pollution research—what have we learned? Science (2024). DOI: 10.1126/science.adl2746Science

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