こんにちは、岡山矯正歯科の院長 田川 淳平です。
「矯正治療途中でマウスピースの再作成(追加アライナー)が必要と言われました。これは矯正治療の失敗ということでしょうか?」
——診察や再評価の場面で、20〜50代の患者さんから最もよく受けるご質問の一つです。
まず強調したいのは、“再作成=失敗”ではありません。
むしろ、仕上がりの精度を上げるための前向きな工程だということ。
装置が透明で目立ちにくいマウスピース矯正は、日常生活に取り入れやすい一方で、治療途中のごく小さな“ズレ”を丁寧に拾い、再スキャン→治療計画の練り直し→マウスピースの再作成というプロセスで軌道修正していく設計思想を持っています。
一般的には「リファインメント」「追加アライナー」と呼ばれることもあります。
たとえるなら、長距離フライトの機内でパイロットが細かく進路を調整するのに似ています。
離陸前に綿密なプラン(初期の治療計画)を作っていても、風向き(生体反応の個人差)、気流(生活リズムの変化)、機体のごく小さな揺れ(アタッチメント脱落やIPRの誤差)などで、予定ルートと現実の位置に微差が生まれることは珍しくありません。
矯正歯科では、この微差を見逃さず、必要なタイミングで追加アライナーを用いて“最終目的地(理想の歯並びと咬合)”に再接続します。
マウスピース矯正の魅力は「日常と両立できる自由度」です。
仕事で人前に立つ、育児で時間が不規則、食事会が続く、テレワークで生活テンポが変動する——矯正治療途中に生じるこうした“生活のリアル”は、決してネガティブ要素ではありません。
むしろ、再作成という柔軟な選択肢があるからこそ、矯正治療は現実の生活と寄り添いながら前に進めます。
たとえば「装着時間が数日だけ不足してしまった」「ある歯の回転がわずかに取り切れていない」「前歯のトルクがあと一歩」 ——こうした“あと少し”の差を、再スキャンに基づく新しい計画で埋めていくのが追加アライナーの役割です。
ここで誤解をほどきます。
再作成は“後退”ではなく、仕上げを磨き上げるための追加投資です。
初期計画を否定するものでも、患者さんの努力不足を責めるものでもありません。
矯正歯科医の役割は、治療途中で見えてきた現実(現在の歯列の位置、歯周組織の反応、生活の変化)を受け止め、適切な“上方修正”を提案すること。
患者さんの役割は、マウスピースの装着時間とセルフケアを丁寧に積み重ねること。
双方の協働が、理想のゴールに近づく一番の近道です。
また、追加アライナーの提案は、医療機関側の治療品質管理にも直結します。
微差を微差のうちに補正し、将来的な“やり直し”や“不満足”の芽を早めに摘む。
これは結果として、矯正治療全体の満足度と安全性を底上げします。
再作成の回数や期間、費用の取り扱いは矯正歯科医院によって異なりますが(包括か都度かなど)、必要性の判断は“よりよい結果を目指すための臨床判断”です。
この記事では、再作成(追加アライナー)とは何か、治療途中でなぜ「必要」と判断されるのか、再スキャン→再設計→マウスピース再作成の具体的な流れなどを、矯正歯科医の視点で丁寧に解説します。
20〜50代の女性を中心に、仕事や家事・育児、介護、学び直しなど、それぞれのライフステージに寄り添った現実的な運用のヒントも散りばめました。
最後に。追加アライナーは、遠回りではありません。
マウスピース矯正の“設計思想”に含まれている、合理的で安全な微調整の仕組みです。
再作成という選択を前向きに捉え、矯正治療のゴールを一緒に磨き上げていきましょう。

- 「再作成(追加アライナー)」とは何か
- 治療途中で再作成が「必要」になる主な理由
- 実際の流れ:再スキャンから治療計画の練り直し、マウスピース再作成まで
- 再作成で変わること・変わらないこと(装着時間・IPR・アタッチメント・ゴム)
- よくある不安と誤解:再作成=失敗ではありません
- 費用・期間・回数の目安(一般論)
- 当院における体制とデジタル設備(事実ベースのご紹介)
- FAQ(よくある質問)
- まとめ(この記事の要点)
1.「再作成(追加アライナー)」とは何か
再作成(追加アライナー)とは、初期計画と治療途中の“現在地”に生じた差を埋め、矯正治療のゴールへの到達精度を高めるために、新たにマウスピースを再作成する工程です。
一般的に「追加アライナー」「リファインメント」と呼ばれることもあります。
ポイントは、**“やり直し”ではなく“上方修正”**であること。
以下の要素で構成されます。
1-1. 目的:現在の歯列に合わせた“再最適化”
- 現状把握:写真・咬合・アタッチメント状態・装着記録・清掃状態を総合評価。
- 差分の特定:どの歯が、どの方向に、どれくらい計画とズレたかを可視化。
- 最適化:現在の位置から理想の咬合へ、最短距離のルートを引き直す。
→ 結果として、仕上げの精度と患者さんの体験(見た目・咬み合わせ・清掃性など)を底上げします。
1-2. きっかけ:再作成が「必要」になるサイン
- 生体反応の個人差:回転・挺出・トルク付与など難易度の高い動きで差が出た。
- マウスピースと歯の浮き(不適合):計画通りの力が伝わっていない可能性。
これらは矯正歯科においてに遭遇するサインで、放置せず再作成で補正するのが合理的です。
1-3. 手段:再スキャン→再設計→マウスピース再作成
- 再スキャン:口腔内スキャナーで現在の歯列を高精度にデジタル採得。
- 治療計画の再設計:
- アタッチメントの形状・位置の見直し(トルク・回転・挺出の効率化)
- IPR(歯間研磨)の量・タイミングの最適化(過不足の是正)
- 顎間ゴムの導入・増減
- 必要に応じてTADなど他装置の検討(症例難度に応じて)
- マウスピースの再作成:新計画に基づいた追加アライナーを製作し、フィットを確認。装着指導・ケア指導もアップデート。
1-4. 追加アライナー“ならでは”の価値
- 精度:“現在”の状態を反映し、治療途中からゴールまでの“誤差伝播”を抑制。
- 安全性:力の方向・大きさ・順序を見直すことで、歯周組織への過大なストレスを避けやすい。
- 心理面:患者さんが“改善感”を実感しやすく、モチベーションの回復や維持につながる。
1-5. 誤解を避けるために
- “ゼロからのやり直し”ではない:多くは、到達度を上げるための微修正の積み上げ。
- “装着努力の否定”ではない:努力が可視化されにくい領域(生体反応差・力の伝達効率など)を矯正歯科の側で丁寧に補正する工程。
- “無限に繰り返すもの”ではない:必要性の根拠があり、目的と効果が明確な場合に提案される医療上の判断。
1-7. 患者さん側の実践ポイント
- 装着時間の再確認:目安は1日22時間。外したら可能な限り早く再装着。
- セルフチェック:浮き・痛み・引っかかり・着色など“気になる点”をメモ。
- 清掃・保管の徹底:マウスピースと歯面の双方を清潔に保ち、トラブルを予防。
- 来院時の共有:生活の変化も躊躇なく伝えることが、現実的で無理のない再設計につながります。
2.治療途中で再作成が「必要」になる主な理由
追加アライナー(マウスピースの再作成)が治療途中で「必要」と判断される背景は一つではありません。
生体反応・装着時間・力の伝達・装置の条件など、複数要因が絡み合って“微差”を生みます。
ここでは患者さんが納得しやすい順序で、矯正歯科の臨床現場で頻度が高い5つの理由を整理し、矯正治療の品質管理として再作成がどのように機能するかを解説します。
2-1.装着時間のばらつき(最頻要因)
- ポイント:マウスピースは「弱い力を長時間かけ続ける」設計。1日22時間の装着が理想です。
- なぜズレる?:出張・会食・子育て・夜勤・受験など、生活イベントは避けられません。数日の不足が連続すると、1枚あたりの“到達度”が低下し、治療途中で累積誤差が顕在化します。
- 再作成の意義:現状の歯列を再スキャンし、到達度に合わせて移動量・順序を再設計。必要な場合は追加アライナーで軌道修正します。
- ミニTips:外す時間が長くなりがちな方は、昼食直後の「即時再装着」を習慣化。会食時は“外す→ケース保管→口腔清掃→再装着”のルーティンを固定すると安定します。
2-2.生体反応の個人差(骨・歯根膜のリモデリング速度)
- 個人差:年齢・代謝・歯周組織の状態・薬剤(骨代謝に影響するもの)などで、移動効率が変化。
- 現れ方:矯正治療で動きが大きい歯ほど差が出やすい。
- 再作成の意義:矯正歯科医が「動かす順序・力の方向・到達目標」を微調整し、追加アライナーで“今の生体”に最適化します。
- ミニTips:就寝時の無意識の食いしばりなども反応差に影響。気づいた癖は来院時に共有を。
2-3.力の伝達ロス(アタッチメント脱落・IPR誤差・アライナー浮き)
- アタッチメント脱落:食事などで外れることがあります。外れると回転・トルクの制御力が低下。
- IPR(歯間研磨)の微妙な誤差:計画値と実測値に差があると、スペース不足→歯の寄りが甘くなることも。
- アライナーの浮き:交換直後の“わずかな浮き”が解消しない場合、力が歯に正しく入っていないサイン。
- 再作成の意義:再スキャンで「現在の適合状態」を取り込み、再作成でアタッチメント形状・位置、IPR量を再設定。
- ミニTips:外れたアタッチメントは“自己判断で放置しない”。矯正歯科へ早めに連絡→再接着でリカバーが速くなります。
2-4.移動タスクの難易度(回転・挺出・トルク・大臼歯近心移動 など)
- 難所の例:
- 小臼歯の回転(楕円形の断面形態で力が逃げやすい)
- 前歯のトルク付与(アライナーの苦手な動き)
- 大臼歯の近心移動(近心傾斜しやすく、アライナーの苦手な動き)
- 再作成の意義:追加アライナーで微調整、顎間ゴムやTADの併用を再設計。
2-5.生活環境の変化(転勤・出産・介護・留学)
- 変化は前提:矯正治療は中長期。計画中に生活が変わるのは自然です。
- 影響:通院間隔・装着時間・清掃時間が変動。
- 再作成の意義:新しい生活テンポに合わせ、通院ペース・オンライン確認・装着ルールを再設計。追加アライナーで“現実的に続けられる計画”に更新します。
まとめ:上記はいずれも矯正歯科にとって“想定内のゆらぎ”。**再スキャン→再計画→再作成(追加アライナー)**は、“ゆらぎ”を前向きに吸収し、矯正治療のゴールへ最短距離で近づくための合理的な手段です。
マウスピースの再作成が必要になった際にはその理由をお伝えします。
3.実際の流れ:再スキャンから治療計画の練り直し、マウスピース再作成まで
追加アライナーのワークフローを、患者さん視点で“何が起こり、何を準備し、どう判断していくか”に沿って細かく解説します。
Step 0:シグナルの把握(「もしかして再作成が必要?」の前兆)
- セルフチェック:
- 特定の歯の“浮き”が交換後数日たっても消えない
- はまりが固く、装着の最後で引っかかる
- 装着時間が目標に届かない日が連続した
- 行動:気づいたらメモする→矯正歯科の来院時に共有。早い段階での共有が、治療途中のロスを最小化します。
Step 1:治療経過の診察(現状の“ズレ”を把握)
- 所要:15〜30分程度(医院により異なる)
- 行うこと:
- 歯並び、咬合接触、アタッチメント、清掃状態の評価
- アライナー適合(浮き・干渉部位)
- 装着時間の確認(アプリや手帳のログを利用することも)
- IPRの実施
- 患者さんの“困りごと”のヒアリング(見え方・仕事上の都合・発音など)
- 判断:微調整で乗り切れるか/再スキャン→再作成(追加アライナー)が必要かを臨床的に評価します。
Step 2:口腔内の再スキャン(現在地を高精度に取得)
- 目的:今この瞬間の歯列・咬合関係を3Dデータ化。
- チェック:
- 歯並び、咬合接触
- 歯と歯の間のスペース接触点の位置・密度(ブラックトライアングルの予兆も含む)
- ポイント:矯正治療では“現状を正しく測る”ことが最重要。再作成の精度は再スキャンの品質に直結します。
Step 3:デジタル治療計画の再設計
- 狙い:理想の咬合・審美目標を再確認し、追加アライナーで達成するための“現実的ルート”を設計。
- 見直し項目:
- アライナー1枚ごとの移動量を微小化→到達率を高める
- アタッチメントの形状・位置をより適したものに変更(トルク・回転・挺出の効率化)
- IPR:過不足の是正
- 顎間ゴム:固定源の管理、挺出補助に導入
- TAD(必要症例のみ):固定源の強化(前歯の圧下量が多いケース)
- 説明:計画変更点の“臨床的理由”をシンプルに共有(例:「右上3の回転が残っているので、ここを優先的に」)。患者さんが納得できることが、治療途中の継続力を支えます。
Step 4:マウスピースの再作成(追加アライナーの発注・受け取り)
- 製作:再設計データに基づき再作成。
- 装着開始時の確認:
- フィット感・脱着のスムーズさ
- 顎間ゴムの装着練習(必要な方のみ)
- 装着指導のアップデート:以前より厳密な「目標時間」の共有、会食・出張時の運用、保管ケースの活用、破損・紛失時のリカバー手順を再確認します。
Step 5:フォローアップ(短期チェック→安定運用へ)
- 初期チェック:装着開始後数週で“浮き・痛み・はまり”を確認(医院方針による)。
- 以降の通院:安定していれば通常ペースへ。オンライン写真提出(医院運用による)で、必要なときだけ来院してもらう方式も現実的です。
よくあるQ(流れに関して)
- Q:再スキャンから受け取りまで、どれくらい?
A:製作期間はメーカー・医院体制で異なります。事前に目安を共有し、重要イベント(結婚式・出張など)とバッティングしないようスケジューリングします。 - Q:再作成は1回で終わる?
A:目標・難易度・生体差により、再作成が全く必要無いことも、1回で十分なことも、複数回が合理的なことも。必要性は毎回の臨床評価で判断します。
一言でいうと:
再スキャン→再設計→再作成(追加アライナー)は、“計画と現実の距離”を治療途中で縮めるための標準フロー。生活のリアルを織り込み、矯正治療のゴールに最短で近づくための必要十分なプロセスです。マウスピースの再作成のためにはお口をあらためてスキャンします。
4.再作成で変わること・変わらないこと(装着時間・IPR・アタッチメント・ゴム)
追加アライナー(再作成)は“なんとなくやり直す”のではなく、治療途中の「今の口腔内」に合わせて矯正治療の力学と運用を再最適化する作業です。
ここでは、患者さんが不安になりやすいポイントを「変わる可能性があるもの」と「変わらない原則」に分け、具体例・判断基準・注意点を詳しく解説します。
4-1.変わること(ケースに応じて調整される要素)
① アタッチメント(形・位置・数)
- 何が起こる?:回転・挺出・トルクなど未達タスクに合わせ、形状や位置を変更/追加します。
- なぜ必要?:力の“かかり方”を変えることで、逃げていた力を歯に正しく伝えるため。
- 注意点:設置直後は舌触りが変化します。口内炎などができることもありますが、数日で慣れます。
② IPR(歯間研磨量・タイミング)
- 何が起こる?:実測値に合わせて不足分を追加したりします。
- 臨床の意義:過不足の是正=スペース管理の適正化。過密部位の寄りの甘さやブラックトライアングルのリスクを考慮します。
- 患者さんへ:IPRはエナメル質表層を安全域で微量研磨する手技です。しみる等の症状は稀です。
③ 顎間ゴム(使用の有無・時間帯・パターン)
- 何が起こる?:固定源の管理や挺出補助のために新規導入/使用時間の変更を提案する場合があります。
- 利点:アライナー単独で達成しにくい動きを補強。治療途中のズレを効率的に回収。
- 続けるコツ:アライナーケースにゴム・ピンセットを常備。“毎日同じタイミングに装着する”固定化が成功率を高めます。
④ アライナー毎の移動量・アライナー枚数(期間の調整)
- 何が起こる?:1枚あたりの移動量を微小化し、必要枚数が増えることがあります。
- 臨床の意義:到達率を高め、痛みや浮きのリスクを抑えつつ確実に前進。
- 患者さんへ:「枚数=遠回り」ではなく“精度への投資”。交換頻度は医院指示に従いましょう(7〜10日など、方針による)。
⑤ 通院頻度・チェック方法
- 何が起こる?:再作成直後は短期チェック(数週)→安定後は通常ペースに復帰。オンライン写真提出(医院方針による)を組み合わせる場合があります。
- 狙い:初動の“浮き・痛み・はまり”を早期に拾い、微調整の機会損失を防ぐため。
4-2.変わらないこと(ブレない“治療の土台”)
① ゴール指向(機能と審美の両立)
- 再作成によっても、矯正治療の最終目標——機能的咬合と適切な歯列・歯根位置——は不変です。見た目だけ/噛み合わせだけに偏らない設計を続けます。
② 基本原則:1日22時間の装着
- マウスピースは“弱い力の持続”が前提。外す必要がある場面(食事・歯磨き・写真撮影など)を除き、連続装着が基本です。
③ 口腔衛生の最優先
- 歯面・アライナーの双方を清潔に。着色・におい予防は見た目だけでなくモチベーション維持にも直結します。
- 再作成の有無に関わらず、フッ化物応用・補助清掃具の指導は継続します。
4-3.ミニケースで理解する(20〜50代女性に多い場面)
- 例A(20代・接客):前歯回転が残存。→ アタッチメントを追加。勤務中はも装着継続。
- 例B(30代・育児):日中の装着不足。→ 枚数増+顎間ゴムで補助。育児スケジュールに合わせて“装着リマインド”導入。
- 例C(50代・対面業務多):犬歯挺出不足。→ アタッチメント再設計+短期顎間ゴム。人前でも目立ちにくい運用時間帯を共に設計。
4-4.患者さん向け実践チェックリスト
- □ 新アライナーが最後までカチッと入る
- □ 浮きが数日で解消する/増悪しない
- □ 顎間ゴムの装着ルールを把握し、同じ時間帯で継続
- □ 装着ログ(アプリ・手帳)で1日22時間を可視化
5.よくある不安と誤解:再作成=失敗ではありません
追加アライナー(再作成)を提案されると、「計画ミス?」「自分が悪かった?」と不安を抱きやすいのが人情です。
ここでは、患者さんから寄せられる代表的な“モヤモヤ”を矯正歯科の立場でわかりやすく解きほぐし、治療途中の前向きな意思決定につなげます。
5-1.誤解①「計画がダメだったのでは?」
- 答え:違います。初期計画は“最善の仮説”。実際の口腔内での生体反応や生活の変動によって微差が生じるのは想定内です。
- ポイント:再作成は“仮説を現実に合わせてアップデートする”作業。医療の品質管理として必要なプロセ当たりの
- 例:小臼歯の回転が残る → アタッチメント形状を変更+アライナー1枚あたりの移動量を微小化 → 再作成で回収。
5-2.誤解②「自分の努力不足のせい?」
- 答え:装着時間の不足が要因の一つになることはありますが、患者さん個人を責める話ではありません。
- 実際:代謝・歯周組織の状態・咀嚼など、努力では変えにくい因子も影響。
- 提案:装着ログの“見える化”、会食時の運用、顎間ゴムの頑張りなど、現実的に続けられる工夫を一緒に設計します。
5-3.誤解③「期間が延びる=失敗?」
- 答え:延長=失敗ではありません。精度に投資して将来のやり直しリスクを下げる、と捉えるのが合理的です。
- 臨床的には:到達率を上げるためのアライナー1枚あたりの移動量の微小化は、長期満足度と保定の安定性に寄与することが少なくありません。
- 備え:結婚式・出張などのイベントに合わせたスケジューリングを事前に共有すれば、生活への影響は最小化できます。
5-4.誤解④「費用が大幅に膨らむのでは?」
- 答え:費用の扱いは医院の契約形態によって異なります(包括/一定回数まで包括/都度費用など)。
- 患者さんへ:不安は遠慮なく質問を。納得感は継続力に直結します。
5-5.誤解⑤「見た目が悪化するのでは?」
- 答え:目的は“機能と審美の両立”。再作成で歯並びと咬み合わせの整合を見直し、見え方の質を上げることが期待できます。
- コツ:気になるポイントを写真で共有。言語化が難しければ、「この写真のここが気になる」と示すだけでも診断が進みます。
5-6.誤解⑥「再作成=回数無制限で続くの?」
- 答え:いいえ。必要性・目的・効果を毎回説明し、臨床的根拠に基づいて提案します。
- 判断基準:
- 未達タスクが明確で、再設計により改善見込みがある
- 生活側の条件が整い、継続可能性が高い
- 力学的に過大負荷にならない
- 代替:必要に応じて装置の併用(顎間ゴム・TAD・部分ワイヤー等)を提案することもあります。
5-7.不安を小さくする“3つの見える化”
- 装着時間:アプリ・手帳で可視化。週単位で振り返る。
- 症状ログ:浮き・痛み・引っかかりを簡単メモ。次回診察で共有。
- 写真:正面・左右・咬合面を定期的に撮影。変化が客観視でき、モチベーション維持に有効。
6.費用・期間・回数の目安(一般論)
前提:以下は一般論です。実際の費用・期間・回数は、骨格・歯列、虫歯・歯周の状態、生活パターン、治療ゴールの設定、装着時間の達成度などにより大きく個人差があります。
6-1.費用について(よくある運用形態と考え方)
マウスピースの**再作成(追加アライナー)**に関わる費用の運用は、医院の契約形態によって様々です。代表的な考え方を整理します。
- 包括型(一定回数まで追加費用なし)
- 治療費に「追加アライナーを〇回まで含む」契約。
- メリット:再作成の要否を心理的にためらいにくく、治療途中の軌道修正を前向きに選びやすい。
- 留意点:上限回数・上限を超えた場合の費用扱いを事前に確認。
- セミ包括型(必要に応じて部分的に費用発生)
- 軽微な追加は包括、特定条件を超える再作成は都度費用。
- メリット:症例の難易度と実際の追加量をバランスよく反映。
- 留意点:どの条件で費用発生となるかの閾値の説明と同意が重要。
- 都度精算型(再作成ごとに費用)
- 追加アライナーの発注ごとに費用が発生。
- メリット:何をどれだけ追加するかが見えやすい。
- 留意点:回数が増えると総費用が読みにくくなるため、見通しの共有がカギ。
ポイント:どの形であっても「なぜ再作成が必要なのか」「何を改善するのか」「回数や目安期間」「費用の扱い」は、事前説明と合意形成がもっとも大切です。疑問は遠慮なく質問しましょう。
6-2.期間について(“延長=失敗”ではない)
再作成によって、治療全体の期間が数週間〜数ヶ月程度、延びることがあります。これは失敗ではなく、精度に投資するという考え方が合理的です。
- 延長が生じやすい場面
- 回転・挺出・トルクなど難易度の高い移動が残るとき
- 抜歯症例でスペース閉鎖の微差を丁寧に詰めるとき
- 生活要因(出張・育児・介護)で装着時間の波があったとき
要点:期間は短ければ良い、ではなく「安全性と到達精度のバランス」。治療途中での再作成は、将来のやり直しや不満足を減らすための必要な手順です。
6-3.回数について(0回で終わる症例もあれば、複数回が合理的な症例も)
- 0回で十分なケース
- 限局的な叢生など、課題が明確で局所的。
- 複数回が合理的なケース
- 抜歯症例で歯根の傾斜やトルクを丁寧に詰める必要がある
- 大臼歯の近心移動など、固定源の管理が鍵
- 生活要因による装着時間の波が長期にわたった
判断軸:「必要性・目的・効果」が説明できるかどうか。毎回“なぜ今、何のために行うのか”を言語化して合意することが大切です。
6-4.「費用・期間・回数」を賢く把握するチェックリスト
- □ 再作成の目的(どの歯の何を改善?)
- □ 費用の扱い(包括/セミ包括/都度)が明確で、上限・閾値も把握
- □ 期間の見通し(イベントとの調整案)を一緒に作っている
7.当院における体制とデジタル設備(事実ベースのご紹介)
以下は当院(岡山矯正歯科)の“事実ベース”のご紹介です。
治療途中の評価や再作成(追加アライナー)を円滑に行うための体制・装備について、患者さんがイメージしやすいようにまとめています。
7-1.人的体制:日本矯正歯科学会 認定医が2名在籍
- 臨床判断の二重チェック
- 再スキャンの適切なタイミング、アタッチメント設計、IPR配分、顎間ゴムの導入可否など、矯正治療の要点を複数医師で確認できる体制。
- 症例カンファレンス
- 抜歯症例やトルク・回転が複雑なケースでは、計画の妥当性を院内ディスカッションで吟味。
- 患者さんへのメリット(一般的意義)
- 臨床判断の透明性と再現性が高まり、再作成の“目的と効果”を言語化しやすい。
※「在籍人数・資格」は事実の紹介であり、特定の結果を保証するものではありません。
7-2.デジタル設備:口腔内スキャナー/3Dプリンター等を日常運用
- 口腔内スキャナー
- 現在の歯列・咬合を高精度にデジタル採得。現在の状況を把握し、再作成の精度を高めます。
- 唾液・嘔吐反射の負担が少なく、治療途中の再スキャンも短時間で完了しやすい。
- 3Dプリンター(院内活用)
- 必要に応じ、模型や補助装置の試作・検証を効率化。
- 追加アライナー前の形状確認や、院内教育・説明ツールとしても有用。
- デジタルシミュレーション環境
- 治療計画の可視化(最終位置・移動順序・アタッチメント配置)により、患者さんと目標の共有が行いやすい。
7-3.ワークフロー:再作成を“滞りなく”回すための導線
- 中間評価→再スキャン
- 来院時に浮き・痛み・はまり・見え方のモニタリングとヒアリング→必要に応じて再スキャンを即実施。
- 再設計→説明→同意
- アタッチメント/IPR/顎間ゴムの見直しポイントを図解・模型で共有。
- 再作成→装着指導
- 受け取り当日にフィット確認・着脱練習。清掃・装着ルールを再設定。
- 定期的な診察へ
- 定期的な診察+必要時オンライン写真提出。
7-4.“当院らしさ”のまとめ(事実ベース)
- 日本矯正歯科学会 認定医が2名在籍し、判断の複線化を日常運用。
- 口腔内スキャナーや3Dプリンターを含むデジタル設備を活用し、治療途中の評価・再スキャン・追加アライナーの工程をスムーズに。
- 抜歯を伴うマウスピース矯正のような一般に難易度が高いケースでも、適応の見極めを慎重に行いながら対応(※適応可否・方針は個別診断)。
まとめ(7章):当院では、再作成(追加アライナー)を“失敗のリカバリー”ではなく、到達精度を高めるための計画的な工程として扱います。デジタル機器と二重の臨床判断を土台に、現実の生活と矯正治療を両立させる設計で、治療途中の不安を最小化することを目指しています。
当院には日本成人矯正歯科学会の認定医が2名常駐し、デジタル設備を取り揃えております。 8.FAQ(よくある質問)
Q1.「再作成(追加アライナー)」は何回くらい行うのが普通ですか?
A.矯正治療の難易度・ゴール設定・装着時間の達成度により様々です。0回で十分な症例もあれば、複数回が合理的な症例もあります。毎回、必要性・目的・効果を言語化し、合意して進めます。Q2.再作成は“失敗の証拠”では?
A.違います。治療途中で現実と計画に微差が生じるのは想定内の事象。再スキャン→再設計→再作成は、仕上げ精度と安全性を上げるための必要な品質管理です。Q3.費用はどのように扱われますか?
A.医院の契約形態により、包括(一定回数まで)/セミ包括/都度費用などがあります。Q4.治療期間はどれくらい延びますか?
A.一般論として数週間〜数ヶ月の延長が起こり得ます。延長=失敗ではなく、精度への投資と捉えることが合理的です。重要イベント(挙式・出張等)は事前に共有してスケジュール調整します。Q5.アタッチメントが取れました。すぐ再作成ですか?
A.まずはアタッチメントの再接着で回復を図ります。力の伝達に影響が出ていれば、再スキャン→再作成を検討します。自己判断で放置せず、矯正歯科へご連絡を。Q6.IPR(歯間研磨)のやり直しはありますか?
A.計画値と実測値に差がある場合、配分の見直しや微量の追補を行うことがあります。清掃性・歯肉の炎症リスクも併せて評価します。Q7.再作成の間、装置が届くまで何をすれば?
A.現行アライナーの最適番号の装着継続をご指示します(医院判断)。清掃・装着時間の維持が、その後の追加アライナーの適合を高めます。Q8.再作成を繰り返すのが不安です。終わりは見えますか?
A.目的・効果が明確な再作成のみを提案します。“到達の見通し”を共有し、必要に応じて顎間ゴム・部分ワイヤー等の代替・補完策も検討します。
9.まとめ(この記事の要点)
追加アライナー=“やり直し”ではなく、“上方修正による品質向上”。
これが矯正歯科の現場で一貫している基本姿勢です。
治療途中で現実の歯列と治療計画に微差が生じるのは、装着時間の波・生体反応差・アタッチメントやIPRの誤差・咬合機能・生活の変化など、**誰にでも起こり得る“正常なゆらぎ”**が背景にあります。
その“ゆらぎ”を早期に発見し、**再スキャン→治療計画の再設計→マウスピースの再作成(追加アライナー)**で適切に吸収することが、矯正治療の満足度と長期安定性を押し上げます。
本記事(この記事)の4つの結論
- 再作成は必要な品質管理
- 必要なタイミングでの追加アライナーは、仕上がり精度・安全性・満足度を高めるための“計画的工程”。
- 力学設定の見直しがカギ
- アタッチメント/IPR/顎間ゴム/移動順序の再設計で、回転・挺出・トルク・大臼歯移動の未達を解消。
- 期間・回数・費用は確認が必要
- 延長=失敗ではなく“精度への投資”。医院毎の契約形態(包括・セミ包括・都度)を確認してください。
- 患者さんと医院の共同作業
- 装着時間の“見える化”、写真・メモでの“気づき共有”し、“早く・小さく”微差を是正。
追加アライナーの価値(患者さん目線でのベネフィット)
- 見た目:見た目の“あと一歩”を詰めやすい(※個人差あり)。
- 機能:咬合接触の偏り是正
「再作成と聞いて不安」「やるべきか迷う」——そんなときほど、治療途中の今だからこそ得られる情報が多くあります。
必要な軌道修正を、前向きな一歩に変えていきましょう。
具体的な矯正治療期間や費用は、診査・診断のうえで個別にご説明します。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
この記事を読んだ方が、より良い矯正治療を受けられることを願っています。
今後もどうぞご贔屓ご鞭撻のほどを。
💬 \お気軽にご相談ください/
初診相談はWebやお電話で受付中。
患者さん一人ひとりに合った矯正装置を、専門医と一緒にじっくり選びましょう。




