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医療コラム
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2026.06.05

【症例】重度叢生と歯列正中の偏位をマウスピース矯正で改善した抜歯症例(35歳女性・岡山)


「骨性癒着が疑われる歯がある症例は、矯正治療が難しく苦労する」

これが矯正治療の従来の常識でした。

ですが今回ご紹介する症例は、骨格性II級+3本抜歯+下顎大臼歯の骨性癒着疑いという複数の難条件を抱えながら、マウスピース型矯正装置(アライナー矯正)で改善した35歳女性のケース。動的治療18か月、保定2年経過時点でも安定しています。

なぜ難症例にマウスピース矯正が選べたのか。その特殊な治療設計のロジックを解説します。

目次

  1. 叢生と歯列正中の偏位とは
  2. 症例プロフィール
  3. 初診時の状態
  4. なぜ骨性癒着疑い歯のある3本抜歯症例にマウスピース矯正を選んだのか
  5. 叢生と歯列正中の偏位が改善していく経過(正面)
  6. 治療後の状態
  7. 治療前後の比較
  8. 院長より
  9. よくあるご質問

叢生と歯列正中の偏位とは

叢生(そうせい)とは、歯が並ぶスペースが不足して歯が重なり合って生えている状態のことです。一般には「ガタガタの歯並び」「八重歯」と表現されることが多く、見た目の問題に加えて、清掃が難しいために虫歯・歯周病のリスクが高くなったり、咬合(かみ合わせ)の機能が損なわれたりといった影響があります。

歯列正中の偏位とは、上下の前歯の中心線(正中)が顔の中心や上下で一致せず、ずれている状態のことです。原因は歯の位置のズレ、歯のサイズ不調和・先天欠如・骨格的な左右非対称など複数あり、軽度であれば気にならないこともありますが、ずれが大きくなると咬合の偏りや顔貌の左右非対称感が出ることもあります。

本症例の患者さんは、叢生と正中偏位を併発しており、さらに骨格的な上下顎の前後関係のズレ(骨格性II級)と、下顎左側第二大臼歯の骨性癒着疑いという複数の難条件が重なっていました。こうしたケースでは、装置の選択と治療計画の組み立てが治療結果を大きく左右します。

症例プロフィール

年齢・性別35歳・女性
居住地広島県福山市
診断名偏位を伴う骨格性II級、Angle II級、叢生症例
主訴上下歯列の叢生、歯列正中の偏位
既往歴・特記事項下顎左側第二大臼歯は移植歯であり、歯根膜腔が認めづらく動揺がほぼ無いため、骨性癒着が疑われた
治療装置マウスピース型矯正装置(アライナー矯正、計60枚:初回34枚+リファインメント15枚+11枚)。補助装置:顎間ゴム(Class II / Class III エラスティック)、IPR、リンガルボタン
抜歯あり(上顎両側第一小臼歯+下顎左側第一小臼歯の3本抜歯/非対称抜歯パターン)
治療期間動的治療 18か月(保定2年経過時点でも安定)
治療費用(税抜・本症例)検査料 2万円/診断料 2万円/治療費 83万円(トータルフィー制:動的治療中の調整料・観察料・追加アライナー代を含む)/保定料 6万円。自由診療・保険適用外。
※費用は症例の難易度・治療内容によって変わります。詳しくは岡山矯正歯科の料金ページをご確認ください。

初診時の状態

初診時の口腔内・顔貌・X線検査の所見をご紹介します。

口腔内写真(5枚法)

初診時 口腔内5枚法
左から:正面観(叢生・正中偏位が明瞭)/右側方観(Angle II級)/左側方観(第二大臼歯は移植歯)/上顎咬合面観/下顎咬合面観

顔貌写真

X線検査

セファロ分析

項目正常範囲術前
SNA (°)82.279.5
SNB (°)80.472.5
ANB (°)1.87.0
FMA (°)26.834.0
U1-SN (°)107.4102.0
IMPA (°)91.897.0
FMIA (°)58.049.0
U1 to A-Pog (mm)8.9+10.5
L1 to A-Pog (mm)3.0+5.0
Upper lip to E-line (mm)1.1+3.0
Lower lip to E-line (mm)2.0+1.5

骨格的にはハイアングルII級(FMA 34°、ANB 7°)。上下前歯はやや内傾を呈し、骨格性の問題に加えて主に歯槽性の問題(叢生・正中偏位)を併発しています。上口唇のE-lineからの突出(+3.0mm)は、骨格性II級+上顎前歯の前突によるものと考えられます。

なぜ骨性癒着疑い歯のある3本抜歯症例にマウスピース矯正を選んだのか

骨格性II級・3本の非対称抜歯・骨性癒着疑い歯という複数の難条件が重なる症例では、装置選択の判断が治療結果を左右します。本症例では、以下の3つの理由からマウスピース型矯正装置(アライナー矯正)を選択しました。

① 骨性癒着疑い歯を「不動」として明示的にデジタル設計で除外できる

本症例のように下顎左側第二大臼歯に骨性癒着が疑われる場合、その歯に通常の矯正力をかけると、周囲の骨や歯根に予測困難な影響が及ぶリスクがあります。マウスピース矯正の治療計画ソフトでは、特定の歯を「不動歯」として指定し、能動的な歯牙移動の対象から確実に除外することができます。これがアライナー選択の最大の根拠でした。

② 低侵襲かつ審美的

下顎右側臼歯部の遠心移動には、通常であればミニスクリュー(外科的に骨に固定する小さなネジ状の補助装置)の使用が選択肢に挙がります。本症例ではマウスピース矯正のバイオメカニクスを活かすことで、ミニスクリューを使わずに歯の遠心移動を実現できました。装置の審美性と外科的侵襲の少なさを両立できる点は、患者さんへのメリットが大きいと考えました。

③ 三次元的な歯牙移動の精密配分が可能

本症例では、3本抜歯・正中偏位・側方差のあるエラスティック使用(右側Class III/左側Class II)という、左右非対称なバイオメカニクスでの設計が必要でした。マウスピース矯正では、こうした複雑な力系を治療開始前にデジタル設計上で組み込めるため、症例の難しさに対して綿密に対応できます。固定式装置では治療途中のワイヤー調整で対応するしかなく、骨性癒着疑い歯に余計な力が伝わるリスクも高まります。

叢生と歯列正中の偏位が改善していく経過(正面)

マウスピース型矯正装置(アライナー)を1日22時間以上装着していただき、約1週間ごとに新しいマウスピースに交換する治療を継続しました。動的治療期間は18か月でした。経過写真をご覧ください。

叢生・歯列正中偏位が改善していく経過
左から:治療開始時 → 3か月 → 5か月 → 7か月 → 9か月 → 13か月 → 治療終了(18か月)。上顎前歯部の叢生と正中偏位が段階的に改善していく様子が確認できる

治療後の状態

動的治療終了時(18か月経過時)の口腔内・顔貌・X線検査の所見です。

口腔内写真(5枚法)

治療後 口腔内5枚法
左から:正面観(叢生改善・正中一致)/右側方観(Angle II級・緊密な咬合)/左側方観(Angle I級・緊密な咬合)/上顎咬合面観(舌側固定式保定装置装着)/下顎咬合面観(舌側固定式保定装置装着)

顔貌写真

X線・トレース

治療前後の比較

治療前後の口腔内・顔貌・セファロ所見の比較をご紹介します。

口腔内 5方向比較

治療前後 5方向比較
各行=視点(正面・右側方・左側方・上顎咬合面・下顎咬合面)/左:治療前/右:治療後

正面観

治療前後 正面
左:治療前(叢生・正中偏位)/右:治療後(緊密な咬合・正中一致)

正貌(笑顔)

治療前後 笑顔
左:治療前(叢生・正中偏位が外観に影響)/右:治療後(歯列が整い自然な笑顔)

側貌

治療前後 側貌
左:治療前/右:治療後(口元突出感の改善)

上顎咬合面

治療前後 上顎咬合面
左:治療前/右:治療後

下顎咬合面

治療前後 下顎咬合面
左:治療前/右:治療後

セファロ重ね合わせ・変化

治療計画シミュレーション(参考)

マウスピース矯正の治療計画シミュレーション
マウスピース矯正の治療計画シミュレーション(治療開始前に作成)。骨性癒着疑い歯を不動として設計

セファロ数値の比較

項目正常範囲術前術後保定2年
SNA (°)82.279.579.579.5
SNB (°)80.472.572.572.5
ANB (°)1.87.07.07.0
FMA (°)26.834.034.034.0
U1-SN (°)107.4102.091.091.5
IMPA (°)91.897.095.095.5
FMIA (°)58.049.051.050.5
U1 to A-Pog (mm)8.9+10.5+6.5+6.5
L1 to A-Pog (mm)3.0+5.0+4.0+4.0
Upper lip to E-line (mm)1.1+3.0+1.0+1.0
Lower lip to E-line (mm)2.0+1.5+1.0+1.0

治療による主な変化は上顎前歯の後退(U1-SN:-11°、U1 to A-Pog:-4mm)であり、下顎前歯の動きは最小限に抑えられました(IMPA:-2°、L1 to A-Pog:-1mm)。これに伴い、上口唇のE-lineからの突出が2mm改善しています(+3.0mm → +1.0mm)。保定2年時点でもU1-SN・IMPAともに0.5°以内の戻りに留まり、咬合は極めて安定しています。

院長より

本症例は、3本抜歯+骨性癒着が疑われる大臼歯という難条件が重なった症例でした。これに対し、マウスピース矯正の治療計画ソフトで骨性癒着疑い歯を不動歯として指定したうえで、左右非対称の治療計画でエラスティック・IPR・リファインメント設計を組み合わせ、マウスピース矯正単独で動的治療18か月・保定2年安定という結果を得ることができました。

ただし、すべての症例で同じ結果が得られるわけではありません。骨格性偏位の程度・抜歯本数・癒着の有無によって、マウスピース矯正の適応は大きく変わります。難症例ほど、入念な診断と細やかな治療設計が結果を左右します。マウスピース矯正をご検討の方は、診断段階で十分にご相談いただければと思います。

よくあるご質問

Q1. マウスピース矯正は重度の不正咬合でも対応できますか?

A. 症例の状態によって異なります。すべての重度症例にマウスピース矯正が適応できるわけではなく、骨格的な問題や歯の動かす量によってはワイヤー矯正のほうが適していることもあります。診断時のセファロ分析・模型分析・口腔内所見を総合して判断します。本症例のように、治療計画ソフトで不動歯の指定が活かせる、非対称なバイオメカニクスを事前に設計できる、などの条件が揃った場合には、マウスピース矯正が難症例の有力な選択肢になります。

Q2. マウスピース矯正は抜歯せずに治せますか?

A. 症例によります。歯を並べるスペースが十分にある場合や、IPR(歯の側面をわずかに削る処置)で対応できる場合は非抜歯で治療できることがあります。一方、本症例のように口元の突出感を改善したい場合や、スペース不足が大きい場合は抜歯が必要になることもあります。抜歯の判断は、骨格・歯の量・口元バランスなどを総合して行います。

Q3. マウスピースは1日何時間つける必要がありますか?

A. 1日22時間以上の装着が必要です。食事と歯磨きのとき以外は装着を継続することが治療成功の前提条件で、装着時間が短いと予定通りに歯が動かず、治療期間が延びたり計画変更が必要になることがあります。

Q4. マウスピースの治療期間はどれくらいですか?

A. 一般的な目安として1〜3年程度です。症例の難易度・歯の動きやすさ・装着時間の遵守度によって変わります。本症例の動的治療期間は18か月でした。

Q5. マウスピース矯正の費用はどれくらいですか?

A. 矯正治療の費用は症例の難易度・治療範囲によって幅があります。具体的な金額については岡山矯正歯科の料金ページをご確認いただくか、カウンセリングでご相談ください。

Q6. 治療後の後戻りが心配です。

A. 矯正治療後は保定装置(リテーナー)の使用が必須です。可撤式(取り外し可能な)保定装置であれば、最初の1〜2年は1日中、その後は夜間のみと段階的に使用時間を減らしていきますが、後戻りを完全に防ぐためには長期間のリテーナー使用が推奨されます。本症例では舌側固定式保定装置を上下に装着しており、保定2年経過時点でも咬合は安定しています。

本症例についての注意事項

本記事は岡山矯正歯科で実際に治療を行った一例をご紹介したものです。本症例は下顎左側第二大臼歯の骨性癒着が疑われた症例ですが、当該歯はアンカレッジとして利用したわけではなく、不動として扱いました。本来であれば左下7番を近心移動させた方が歯列正中の一致は容易ですが、不動として扱いながら、他の歯を効果的に動かす工夫によって上下の歯列正中を一致させることができました。同じ骨格性II級・3本抜歯症例であっても、骨格的偏位の程度・癒着歯の有無・歯の動きやすさによって適応可否は変わります。重度の骨格性II級症例の標準治療はワイヤー矯正+顎間ゴム、ケースによっては外科的矯正治療との併用が選択肢となります。

治療結果には個人差があり、すべての方に同様の結果が得られることを保証するものではありません。矯正治療には以下のようなリスク・副作用が伴います:歯の動揺・痛み・違和感、装置による粘膜の擦過傷、虫歯・歯肉炎のリスク上昇、歯根吸収、歯肉退縮、後戻り、まれに顎関節症状の出現など。マウスピース型矯正装置の場合、1日22時間以上の装着が治療成功の前提条件となります。

矯正治療をご検討の方は、岡山矯正歯科のカウンセリングにて、患者さんご自身の口腔内状態に基づいた診断・治療方針をご相談ください。

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