こんにちは、岡山矯正歯科の院長 田川 淳平です。
矯正治療は、歯並びの改善や噛み合わせの調整を目的に行われる治療ですが、治療費が高額になるため、多くの患者さんが「保険適用されたら良いのにな?」という疑問を抱きます。
特に、子供の矯正治療や重大な噛み合わせのズレがあるといった問題など、矯正治療が「保険適用」として認められるケースがあるのかどうか知りたいという方が多いでしょう。
実際、矯正治療は自由診療に分類されることがほとんどですが、例外として保険が適用される例、条件、症例、嚙み合わせがいくつか存在します。
この記事では、保険適用の条件、噛み合わせ、例、症例、いくらくらいになるのかの費用の具体例を詳細に解説していきます。
さらに、患者さんから寄せられるよくある質問にも触れ、保険適用の矯正治療についてわかりやすくご紹介します。
制度を活用することで、医療費の経済的な負担を抑えて治療が可能になるかもしれません。
お子様の矯正を考えている親御さんや、自分自身の治療を検討している方にとって、有益な情報をまとめています。
- 矯正治療が基本的に保険適用外となる理由とは?
- 保険適用となる矯正治療の条件と症例
- 矯正治療の費用の具体例
- 保険適用の矯正治療を受けることができる医療機関
- 保険適用の矯正治療についてよくある質問(知恵袋からの疑問をもとに)
- まとめ:保険適用を上手に活用して矯正治療を進めよう
1.矯正治療が基本的に保険適用外となる理由とは?
一般的に、矯正治療は保険適用外とされています。
保険診療は病気や怪我の診療が主です。
かと言って、全ての病気や怪我が保険診療の中に含まれているわけでは無く、発症例の珍しい病気は命の危険があるようなものでも保険適用されていないこともあります。
矯正治療は歯並びの綺麗さと嚙み合わせの健康を整える治療ですが、上記したような命の危険のある病気が保険適用されていないのにも関わらず、矯正治療が保険適用されるのは順番が違うと、矯正歯科医である私も思います。
保険診療の財源は税金ですので、まずは命の危険があるような病気から保険適用されるべきで、そういった病気がカバーされた後に、いつか全ての矯正治療も保険適用される日が来たら良いかもしれません。
こういった流れで、矯正治療は自由診療扱いとなり、保険が適用されず、費用も全額自己負担となることが一般的です。
このため、矯正治療を行う際には、高額な費用を負担する覚悟が必要となります。
たとえば、成人の矯正治療は80万〜120万円程度、インビザラインなどのマウスピース型矯正では100万〜150万円かかることも珍しくありません。
こうした費用の高さから、矯正治療を諦める人も少なくありませんが、実際には例外的に保険適用が認められるケースも存在します。
矯正治療が保険適用されるためには、歯並びや噛み合わせに深刻な影響を及ぼす医学的問題があることが条件です。
たとえば、先天疾患と言って生まれつき顎の成長にトラブルが出ることが分かっている病気の方、日常生活に支障をきたすほどの噛み合わせの問題がある場合や、顎の成長に異常があり治療が不可欠と判断される場合には、保険適用が認められる可能性が出てきます。
このように、認められる条件、例を満たすことが必要であり、具体的な嚙み合わせ、症例が保険適用の判断基準として重要視されます。
2.保険適用となる矯正治療の条件と症例
保険適用となる矯正治療には、一定の条件が必要です。
その条件、嚙み合わせ、例、症例を満たしている必要があります。
保険適用を受けるためには、条件を満たしていることが条件であり、特に日常生活に支障をきたすレベルの噛み合わせの問題や、先天的な疾患が伴う場合には適用される可能性が高まります。
以下では、子供の矯正治療における保険適用の条件と、成人の矯正治療での条件について具体的に見ていきましょう。
2-1.子供の矯正治療で保険が適用されるケース
子供の矯正治療では、成長期にあることから、顎や歯の発達に影響を及ぼす深刻な問題がある場合に保険適用が認められることがあります。
以下のような条件がある場合には、保険が適用されることが多いです。
- 唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ):生まれつき上顎や唇に裂け目が生じている先天的な疾患です。この場合、矯正治療と口唇裂や口蓋裂の修復手術が必要とされ、治療が長期にわたるため、保険が適用されます。唇顎口蓋裂の治療は、産まれた直後からスタートし、成長期を通して矯正治療が必要なため、患者さんとその家族にとっては大きな助けとなります。
- 3本以上の萌出不全:口の中に出てこれない永久歯が3本以上あり、歯ぐきを切開し開窓してその歯を牽引する場合には保険適用となります。ただ、1本くらいはよくありますが、3本もあることはかなり稀です。
- 6本以上の先天欠如歯:永久歯が生まれつき6本以上無い場合にも保険適用となります。ただこちらも、2,3本無いことはよくありますが、6本以上はかなり稀です。
- 上記以外の厚生労働大臣が定めた疾患:コチラのサイトに記載されている、ゴールデンハー症候群、ダウン症候群、ヌーナン症候群などの疾患をお持ちの方の場合には、矯正治療が保険適用となります。ただ、どこの医療機関で治療しても保険適用となるわけでは無く、歯科矯正診断料算定の指定機関でのみ可能です。矯正歯科医の診断に基づき、この治療が行われると、矯正治療の費用は3割負担となります。
これらの症状、例に該当する場合には、歯科矯正診断料算定の指定機関で矯正治療を受ける場合には、保険適用が認められます。
2-2.成人の矯正治療で保険が適用される場合
成人の矯正治療でも、上記の子供の矯正治療で保険適用となる場合に加えて、顎の位置や噛み合わせに深刻な問題がある場合には保険適用が認められることがあります。
成人のケースでは、特に外科手術を必要とする顎変形症の場合に保険適用となることが多いです。
具体的な条件、例を見てみましょう。
- 顎変形症で手術を含む矯正治療が必要な場合:成人、またはある程度成長が終わった高校生くらいの子供で上下の顎の大きさや位置が正常範囲から大きくずれ、噛み合わせや咀嚼機能に支障がある場合、外科手術と矯正治療を組み合わせて行う外科的矯正治療(外科矯正)が必要とされます。この場合、外科手術も矯正治療も保険が適用され、自己負担額は3割と大幅に軽減されることが可能です。たとえば、下顎が前に突出していて、普通に会話したり食事をするのが難しい下顎前突の場合などが該当します。
成人の場合は、子供の矯正治療で保険が適用される条件、例に加えて、顎変形症の場合にも保険適用となります。
この場合には、顎口腔機能診断料算定の指定機関で矯正治療を受ける場合には、保険適用が認められます。
2024年度日本矯正歯科学会の学術大会における市民公開講座で「保険診療が適用される矯正歯科治療」という演題で講演が行われ、その講演の動画が公開されています。
以下の動画ですので、よろしければご覧になってください。
3.矯正治療の費用の具体例
3-1.自由診療の場合の費用
保険が適用されない通常の矯正治療は、基本的に自由診療扱いとなり、すべて自己負担で賄わなければなりません。
自由診療の費用は、治療方法や矯正装置の種類、治療の難易度によっても大きく異なります。
自由診療の矯正治療はいくらくらいかかるのでしょうか?
以下は、一般的な矯正治療の費用相場です。
- 子供の矯正治療:矯正治療を早期に開始する場合、成長に伴い柔軟に歯や顎が動きやすいです。子供の矯正治療はおおよそ30万円から70万円が目安とされます。ただし、特別な装置を使用する場合や、治療の進行度に応じて追加費用がかかることもあります。たとえば、インビザラインファーストのような装置は、初期の費用に含まれないことも多く、追加の費用負担が発生することもあります。
- 成人の矯正治療:成人の場合、歯や顎の成長が完了しており、治療は2~4年と長期間にわたることが一般的です。成人の矯正治療の費用は約80万円から120万円が相場です。一般的なワイヤー矯正でこの金額がかかりますが、治療に必要な装置の種類や期間によって変動することがあります。特に歯科矯正用アンカースクリューのような特別な装置を併用する場合には、さらなる追加費用が発生することも考慮が必要です。
- インビザラインなどのマウスピース型矯正:目立たない矯正方法として人気の高いインビザラインは、透明なマウスピースを用いるため、審美的なニーズに応えた治療方法です。費用は100万円から150万円程度で、患者さんの歯並びの状態や使用するマウスピースの枚数によっても料金が異なります。また、インビザラインは毎月のチェックが必要で、追加の診察料や新しいマウスピースの費用がかかることもあります。治療期間が長期にわたると費用も増すため、いくらかかるのか事前に細かい見積もりを確認しておくことが重要です。
3-2.保険適用される場合の費用
保険適用の場合、治療費は3割負担が基本となります。
また、手術を伴う外科矯正であれば、手術・入院によって1か月にかかる医療費が高額となるために高額療養費制度を活用することもできるため負担額がさらに限られます。
以下に、具体的な例ごとの費用がいくらになるかの目安を示します。
- 顎変形症の外科手術と矯正治療:上下の顎のズレが大きい場合には、矯正治療とともに外科手術が必要とされることが多く、この場合には矯正治療にも外科手術にも保険が適用されます。数年間かかる矯正治療は総額で約30~50万円、外科手術は約40~50万円となることが一般的です。もしもこの治療を自費で行っていたら数百万円となるため、患者さんの負担はかなり抑えられています。さらに高額療養費制度を適用することで、特に外科手術の治療費が還付される場合もあります。
- 先天疾患などによる不正咬合の矯正治療:子供や大人で上述の先天疾患などをお持ちで、矯正治療を受ける場合、矯正治療は保険適用となります。この条件、例では、治療費全体の3割を自己負担するため、自己負担額は30万から50万円程度が目安となります。治療が進行し、調整が必要になるたびに追加費用が発生しますが、保険適用が認められているため、通常よりも大幅に費用が抑えられます。
4.保険適用の矯正治療を受けることができる医療機関
保険適用を受けるためには、医療機関の条件が必要です。
保険適用される矯正治療を提供できる医療機関であるかどうかを受診前段階で確認することが大切です。
4-1.保険適用の矯正治療を提供できる医療機関
上記した症例、条件、嚙み合わせの例を満たせば、どこの医療機関で矯正治療をしても保険適用となるわけではありません。
歯科矯正診断料算定の指定機関と顎口腔機能診断料算定の指定機関でのみ可能です。
これらの医療機関で上記した条件の矯正治療を受けるのであれば、矯正治療の費用は3割負担となります。
顎口腔機能診断料算定の指定機関で矯正治療を受ける場合には、保険適用が認められます。
顎変形症の外科矯正を受ける場合には、顎口腔機能診断料算定の指定機関。
それ以外の保険適用の矯正治療を受ける場合には、歯科矯正診断料算定の指定機関を受診してください。
4-2.保険適用の矯正治療が可能な医療機関での矯正治療
患者さんご自身や親御さんが、保険適用だろうと判断したからといって矯正治療が保険適用になるわけではありません。
矯正歯科医の判断が必要になります。
このため、まずは上記の医療機関を受診して相談してみてください。
上記の先天疾患をお持ちの場合には、かかりつけのお医者さんに診断書や紹介状を書いて頂くことも大事です。
4-3.高額療養費制度の活用
外科矯正の場合には、手術の治療費を高額療養費制度を利用することで、患者さんの負担を大幅に軽減することができます。
高額療養費制度は、1か月の医療費が一定額を超えた場合、その超過分を払い戻してくれる制度で、医療費負担が大きい場合に適用されます。
たとえば、顎変形症の手術を受ける際には、1か月分の治療費が高額になるため、この制度の対象となることが一般的です。
高額療養費制度を利用する場合、まず医療費の領収書を保管し、保険者(加入している健康保険組合や市区町村の国民健康保険)に申請する必要があります。
申請には領収書とともに、診断書や治療内容の詳細が記載された書類が必要です。
また、複数回の入院や治療が続く場合にも、1か月ごとに申請することで、治療費の負担が抑えられます。
制度の利用方法については、医療機関の窓口や担当医に相談することで、必要な手続きのサポートを受けることができます。
5.保険適用の矯正治療についてよくある質問(知恵袋からの疑問をもとに)
矯正治療において、特に保険適用が関わる場合には多くの疑問が浮かびがちです。
ここでは、よくある質問や質問例を「知恵袋」で見かける疑問をもとに回答していきます。
矯正治療、特に保険適用の矯正治療を検討している患者さんやご家族の参考にしてください。
Q1. インビザラインは保険が適用されますか?
A. インビザラインは一般的に保険が適用されません。これは、保険適用の矯正治療では、国がルールを決めていて、使用できる装置などが決まっており、インビザラインはその中に含まれていないためです。インビザラインは、透明なマウスピースを使って歯を少しずつ動かす治療方法で、目立たないため大人や思春期の患者さんに人気があります。しかし、この矯正方法は、保険が適用されるのは難しいのが現状です。
Q2. 子供の矯正治療はいくらくらいの費用がかかりますか?
A. 子供の矯正治療は、通常の自由診療で行われる場合、治療方法や期間によって費用は異なりますが、目安として30万〜70万円がかかることが多いです。これは、一般的なワイヤー矯正やマウスピース矯正を含む費用であり、装置の調整や定期的な診察費用も含まれています。
一方で、保険が適用される場合には、自己負担が3割になるため、15万円程度で治療が受けられるケースもあります。たとえば、上述した唇顎口蓋裂などの厚生労働大臣が定めた疾患をお持ちであったりする条件、症例の場合には矯正治療が保険適用になる可能性があり、その場合の費用負担は大幅に軽減されます。また、子供の矯正治療は、成長に合わせて治療計画が変わることがあるため、将来的に必要となる追加治療の費用も考慮しておくと安心です。治療費がいくらくらいになるかの見積もりを受ける際には、保険適用の可否も含めて担当医と詳細を確認しておくと良いでしょう。
Q3. 矯正治療が保険適用になるかどうかは誰に相談すれば良いですか?
A. 矯正治療が保険適用になるかどうかの判断は、まず矯正専門医に相談するのが一般的です。専門医は、治療の必要性を医学的に判断し、患者さんが保険適用の条件に該当するかどうかを見極めます。特に、顎変形症や噛み合わせの異常が疑われる場合には、専門医による詳細な診断が必要です。また、保険適用の診断が可能な医療機関であれば、適用される治療の範囲についての説明を受けることもできます。
また、インターネットで情報を調べたり、知恵袋などのQ&Aサイトで他の患者さんの経験談を参考にするのも役立ちますが、最終的な判断は医師の診断に基づくことが大切です。保険適用の条件は症例ごとに異なるため、正確な情報を得るためにも、実際に専門医のカウンセリングを受けるのがおすすめです。
6.まとめ:保険適用を上手に活用して矯正治療を進めよう
矯正治療は、歯並びや噛み合わせの改善を目指すものであり、通常は自由診療となるため高額な費用がかかることが一般的です。
しかし、特定の条件、嚙み合わせ、症例を満たすことで、保険が適用されるケース、例も存在します。
保険適用の条件をしっかりと把握することで、治療費の負担を軽減する方法を見つけられるでしょう。
保険が適用される矯正治療の条件、例は、特に厚生労働大臣が定めた疾患をお持ちの場合か、外科手術を併用する外科矯正を行う顎変形症の症例に限られるため、しっかりと専門医と相談し、判断することが重要です。
また、保険適用が認められるケースでは、通常の自己負担額よりも少ない費用で治療を受けられるメリットがあり、適用される場合には積極的に活用したいところです。
さらに、自己負担額が高額になる場合には、高額療養費制度を利用することもでき、1か月の支出額が一定額を超えると払い戻しを受けることができます。
治療中に不明点や疑問が生じた場合には、知恵袋やQ&Aサイトを利用して他の患者さんの体験を参考にするのも一つの方法ですが、確実な情報を得るためには、専門医との相談が最も信頼できます。
保険適用の条件を理解し、賢く制度を活用して経済的負担を抑えながら矯正治療を進めていきましょう。
当院では、一人ひとりの患者さんに最適な矯正治療を提案し、治療中も患者さんが相談しやすい快適な環境を作るよう心掛けています。
矯正治療に興味のある方はお気軽にご相談ください。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
この記事を読んだ方が、より良い矯正治療を受けられることを願っています。
今後もどうぞご贔屓ご鞭撻のほどを。